はじめに
2025年7月25日、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、れいわ新選組、共産党の野党5党が、ガソリン税の暫定税率廃止法案を8月1日召集の臨時国会に提出する方針で一致したと報じられました（時事通信、2025年7月25日）。この法案は、ガソリン1リットル当たり53.8円の税金のうち、暫定税率分である25.1円を廃止するもので、地方自治体の減収分を国が補填し、販売業者への給付措置も含まれる見込みです。野党側は与党が過半数を失う中、この政策を足がかりに攻勢を強める構えです。本ブログでは、ガソリン税の暫定税率廃止が日本経済に与える影響と、それが景気浮揚の起爆剤となり得るかを考察します。
ガソリン税廃止の直接的影響
1. ガソリン価格の低下と家計への恩恵
ガソリン税の暫定税率（25.1円/リットル）が廃止されれば、ガソリン小売価格は約1割以上低下すると試算されています（NEWS DAILY、2025年7月7日）。例えば、2024年7月時点でガソリンの小売価格が約175円/リットルである場合、税廃止により約150円/リットルまで下がる可能性があります（Belonging Japan、2024年7月21日）。これにより、家計の燃料費負担が軽減され、特に自動車依存度の高い地方の世帯や運輸業界にとってメリットが期待されます。家計の可処分所得が増加することで、消費が刺激される可能性があります。
2. 運輸業界への影響
運輸業は燃料コストの削減により利益率が改善する可能性があります。特に、トラック運送やバス事業など、ガソリンや軽油を大量に消費する業界では、コスト減が競争力の向上やサービス価格の低下につながるかもしれません。ただし、ガソリンの価格弾力性が低い（1～3%程度の消費量増加にとどまる）とされており、需要の大幅な増加は期待しにくいとの分析もあります（NEWS DAILY、2025年7月7日）。
経済全体への影響
1. 景気浮揚の可能性
ガソリン価格の低下は、消費者物価指数（CPI）の低下を通じてインフレ圧力を緩和し、消費者の購買力を高める効果が期待されます。2024年、日本経済は2％を超えるインフレと賃金上昇が続いており（IMF、2025年2月7日）、ガソリン価格の低下は家計の実質所得を増やし、個人消費を刺激する可能性があります。個人消費は日本経済の約60％を占めるため、この効果は無視できません。
しかし、ガソリン消費の増加は貿易赤字の拡大を招くリスクがあります。2022年、日本は化石燃料の輸入依存度の高さから過去最大の貿易赤字（20兆円超）を記録しました（IEEFA、2024年9月23日）。ガソリン需要の増加により輸入量が増えれば、円安が進行し、物価上昇を通じて国民の購買力が逆に低下する可能性が指摘されています。このため、景気浮揚効果は短期的にはプラスでも、長期的には不確実です。
2. 財政への影響と代替財源の課題
暫定税率廃止による税収減は年間約1.3～1.5兆円に上ると試算されています（NEWS DAILY、2025年7月7日）。この減収は、道路整備や公共交通の維持に充てられている地方自治体の財源に大きな影響を及ぼします（The Mainichi、2025年5月7日）。法案では国が減収分を全額補填する方針ですが、代替財源の確保が課題です。自民党は新たな財源確保の必要性を理由に早期審議に慎重な姿勢を示しており（時事通信、2025年7月25日）、財源問題が解決しない場合、財政赤字が拡大し、国債発行の増加や公共サービスの縮小を招く恐れがあります。
環境への影響
ガソリン税廃止は、環境政策に逆行するリスクがあります。国立環境研究所の試算によると、ガソリン価格が25円/リットル下がると、CO₂排出量が年間1,000～1,300万トン増加（1990年比で約1％増）する可能性があります（NEWS DAILY、2025年7月7日）。日本は2030年までに温室効果ガスを46％削減する目標を掲げており（Sasakawa USA、2020年4月29日）、この政策は気候目標との整合性を欠くとの批判があります。さらに、ガソリン車への依存を助長することで、電気自動車（EV）やハイブリッド車への移行が遅れる懸念も指摘されています（The Mainichi、2025年5月7日）。
景気起爆剤としての限界
ガソリン税の暫定税率廃止は、短期的な家計負担軽減や消費刺激を通じて景気浮揚に寄与する可能性があります。しかし、以下の要因から「起爆剤」としての効果は限定的と考えられます：
- 需要の価格弾力性の低さ：ガソリンの消費量は価格低下に対して大きく反応しないため、経済全体への波及効果は限定的です。
- 貿易赤字と円安リスク：ガソリン消費の増加は輸入コストを増やし、円安による物価上昇を招く可能性があります。
- 財政負担：税収減の補填には新たな財源が必要であり、財政健全化の遅れが経済の信頼性を損なうリスクがあります。
- 環境コスト：CO₂排出増は日本の気候目標に反し、国際的な評判や企業の競争力に影響を及ぼす可能性があります。
代替案：炭素税の導入
一部の専門家は、ガソリン税廃止よりも炭素税の導入が現実的だと主張しています（The Asahi Shimbun、2024年12月2日）。炭素税はCO₂排出量に応じた課税を通じて環境負荷を抑制しつつ、税収を再生可能エネルギー投資や低所得者支援に活用できます。日本の現行炭素税率（289円/t-CO2）は欧州諸国に比べ低く（SpringerLink、2021年3月27日）、税率引き上げによる環境・経済両面の効果が期待されます。
結論
ガソリン税の暫定税率廃止は、短期的な家計負担軽減や消費刺激を通じて景気浮揚に寄与する可能性がありますが、貿易赤字の拡大、財政負担、環境への悪影響といった課題から、景気の「起爆剤」としての効果は限定的です。むしろ、炭素税の強化や再生可能エネルギー投資など、経済と環境の両立を図る政策が長期的な成長に寄与するでしょう。政府は、税収減の補填策や環境対策を明確に示し、国民の理解を得ながら政策を進める必要があります。
参考文献
- 時事通信, 2025年7月25日
- NEWS DAILY, 2025年7月7日
- The Mainichi, 2025年5月7日
- IEEFA, 2024年9月23日
- IMF, 2025年2月7日
- Belonging Japan, 2024年7月21日
- The Asahi Shimbun, 2024年12月2日
- SpringerLink, 2021年3月27日
- Sasakawa USA, 2020年4月29日
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